เข้าสู่ระบบ社長室の重い扉を開けると、取締役たちが次々に立ち上がった。壮真が姿を現すのを、彼らは今か今かと待ち構えていたのだろう。その顔には、焦燥と苛立ち、そして経営トップに対する不信感がありありと浮かんでいた。株式市場が開いてから、神崎グループの株価は急落していた。隠し子の存在、妻との離婚、そして鷹宮財閥当主による康太の紹介。週末に広まった一連の報道は、単なる経営者のスキャンダルでは済まされなかった。神崎財閥そのものの信用を揺るがし、投資家たちの不安を一気に膨らませていたのだ。このまま株価が下がり続ければ、会社の資金調達にも影響が出かねない。株主たちが経営陣への責任追及に動く可能性もある。役員たちにとって、もはや傍観していられる状況ではなかった。「社長!!どうするんですか!?」「社長はどうお考えなんですか!?」「あの報道は、本当なんですか!?」「社長!!」口々に壮真に向かって問いかけてくる。次々に浴びせられる声が、壮真の耳に突き刺さった。病院を出てから、彼は一度も落ち着いて考える時間を持てていなかった。父の容態、会社の株価、役員たちの反応。考えなければならないことばかりが頭の中を駆け巡り、何から手をつけるべきなのかさえ、整理できずにいた。それでも、ここで弱みを見せるわけにはいかない。自分は神崎グローバルトレーディングの社長であり、神崎財閥を率いる立場にある。社員たちも、取引先も、そして株主たちも、今の自分の言動を見ているはずだ。そう自分に言い聞かせながら、壮真は奥にある自分の席へと歩き出した。しかし、途中にいた役員の一人が、彼の腕をつかんだ。「社長、説明してください!このままでは、株主たちが黙っていません!」その瞬間、それまで必死に抑えていた壮真の怒りが爆発した。自分だって、どうすればいいのかわからない。父が倒れ、会社の株価が下がり、世間からは非難の目を向けられている。自分自身も追い詰められているというのに、誰一人として助け舟を出そうとはせず、責任ばかりを押しつけてくる。その苛立ちを、壮真は目の前の役員にぶつけた。「黙れ!!みんな席に着くんだ!!」社長室に怒声が響き渡った。壮真の剣幕に、その場の全員が口をつぐんだ。腕をつかんでいた役員も、思わず手を離す。先ほどまで騒然としていた室内に、重苦しい沈黙が落ちた。中には―――ああ
第323話「脳出血!?」病院から神崎本邸に寄り、その後、少しの間だけ九条本邸へ顔を出した心春から事情を聞いた玲司は、思わず声を上げた。普段はどんな事態にも冷静に対処する玲司でさえ、正蔵が脳出血で倒れたという報告には驚きを隠せなかった。神崎家を長年にわたって支配し、家族にも社員にも絶対的な存在として君臨してきた正蔵。心春から聞いた話では、医師も意識が戻るかどうかは断言できないという。あれほど強引で、頑固で、誰よりも自分の思いどおりに物事を進めようとしてきた男が、今は病院のベッドで生死の境をさまよっている。人間とは、どれほどの権力を手にしても、どれほど財力を持っていても、病には抗えないものなのだ。玲司はそんな思いを胸に抱きながら、心春の表情を見つめた。心春もまた、昨夜から張り詰めた時間を過ごしていたのだろう。和真の傍にいながら、壮真のことも、正蔵のことも気にかけなければならない。まだ二十五歳にも満たない娘が、突然、夫の家族が抱える問題の中心に立たされている。けれど、心春の瞳には、以前のように戸惑うだけの色はなかった。彼女は一度、小さく息を吸い込むと、隣に座っていた綾乃へ向き直った。「私はまた病院に戻るから、ママにはお爺ちゃんのことをお願いしてもいいかな」綾乃は大きく頷いた。「お爺ちゃんのことは大丈夫よ」そう答えながら、綾乃は心春の顔をじっと見つめた。ついこの間まで、何かあれば両親を頼り、困ったことがあれば甘えてきた娘だった。それが今では、自分の居場所を離れ、夫の家族を支えるために自ら動こうとしている。鷹宮財閥の当主夫人として、紹介されたからだろうか。心春はもう、誰かに守られるだけの存在ではないのだ。夫を支え、夫の家族と向き合い、自分にできることを考えて行動している。その成長を頼もしく思う一方で、綾乃の胸には、言葉にしがたい寂しさも込み上げていた。玲司もまた、そんな妻の気持ちを察したのか、静かに頷いた。「和真の傍に居てやってくれ。ただ、くれぐれも、お前も無理はするな」そう言って、玲司は心春の頭を優しく撫でた。その大きな手の温もりに触れた瞬間、心春の胸の奥で張り詰めていたものが、ふっと緩んだ。病院では、和真の前でしっかりしていなければならないと思っていた。正蔵の容態を心配し、壮真の様子にも気を配り、和真が感情を抑えきれなくな
「検査の結果、神崎様は脳出血を起こされていることがわかりました」医師の説明に、壮真は息を呑んだ。「脳出血……?」思わず聞き返した声は、自分でも驚くほどかすれていた。脳出血。その言葉が頭の中で繰り返される。昨夜まで、父はいつもと変わらず、自分を怒鳴りつけていた。神崎家の将来をどうするつもりなのかと責め立て、こちらが何も言い返せずにいると、さらに声を荒らげた。あのときの父は、いつも通りの父だった。威圧的で、気が短く、自分の考えが絶対だと信じて疑わない。どれほど年齢を重ねても、その迫力が衰えることはないのだと思っていた。それなのに、今は病院のベッドに横たわり、意識すら戻らないかもしれないという。壮真は、目の前に立つ医師の言葉を聞き逃すまいと、必死に意識を集中させた。「以前から高血圧があった可能性も考えられます。ご高齢であることも含め、血管に負担がかかっていたのかもしれません。現時点では出血の影響が大きく、予断を許さない状態です」高血圧。言われてみれば、父は若い頃から仕事に没頭し、食事も酒も好きなように楽しんできた。健康を気遣うよりも、財閥を大きくすることや、自分の思い通りに物事を進めることを優先していた。周囲がどれほど心配しても、父は聞く耳を持たなかっただろう。自分の身体さえ思い通りにできると、どこかで信じていたのかもしれない。そんな父が、病気によって倒れた。壮真は、ようやく目の前にある現実を理解し始めていた。「父は……助かるんですか?」問いかけた声が震えた。医師はすぐには答えず、厳しい表情のまま続けた。「今は出血の状態と意識の回復を慎重に見ていく必要があります。残念ながら、現段階で回復の見通しをお伝えすることはできません」その言葉を聞いた瞬間、壮真の顔から血の気が引いた。回復の見通しが立たない。つまり、命が助かるかどうかさえ、まだわからないということだ。「……そんな」声にならない言葉が、喉の奥で消えた。父は、いつも自分より強い存在だった。どれほど怒鳴られても、どれほど責められても、神崎家の頂点に立つ父が倒れるなど、考えたこともなかった。父の言葉は絶対だった。幼い頃から、壮真は父に逆らうことを許されず、何かを決めるときにも、自分がどうしたいかより、父が何を望んでいるかを考えてきた。父の機嫌を損ねないように振る舞
翌朝。父・神崎正蔵が倒れ、病院に搬送されたという知らせを受けた和真は、急いで病院へ駆けつけた。昨夜、父が倒れたことは聞いていた。しかし、詳しい容体まではわからず、胸の中には不安が渦巻いていた。普段は厳格で、誰に対しても威圧的な父。和真にとっても決して気楽に接することのできる相手ではなかったが、それでも実の父親であることに変わりはない。どうか無事でいてほしい。そう願いながら、和真は足早に集中治療室へ向かった。廊下に到着すると、ガラスの向こうに、いくつもの管を繋がれた正蔵の姿が見えた。その光景に、和真の足が一瞬止まる。いつもなら、こちらを見ただけで威圧するような眼差しを向けてくる父が、今は目を閉じたまま、ベッドに横たわっている。その姿は、和真が知っている父とはまるで別人のようだった。そして、そのガラスの前に立ち、正蔵を見つめ続けている人物がいた。兄の壮真だった。「兄さん!」和真は安堵と心配の入り交じった気持ちで声を掛け、兄のもとへ駆け寄ろうとした。だが、その瞬間だった。呼びかけに反応して振り返った壮真の顔には、和真が予想していたものとはまるで違う、激しい怒りが浮かんでいた。「和真!!」次の瞬間、壮真は拳を振り上げ、和真に向かってきた。「―――!?」突然のことに驚きながらも、和真は反射的に壮真の腕をつかんだ。その勢いを利用して相手の動きを封じると、背中に腕を捻り上げた。「ッ―――」壮真が苦痛に顔を歪める。しかし、和真は手を緩めなかった。ここは病院だ。しかも、すぐ目の前には集中治療室がある。大声を出したり、暴れたりしていい場所ではない。和真は兄の動きを制止したまま、ガラスの向こうにいる父の姿へ視線を向けた。「兄さん、落ち着いてくれ」できるだけ冷静に、そう告げた。父の容体が心配なのは、壮真だけではない。和真だって同じだった。それなのに、病院へ駆けつけた弟に対して、兄は拳を振り上げてきたのだ。いったい、何を考えているのか。和真には理解できなかった。だが、その言葉を聞いた瞬間、壮真はさらに激しく抵抗し始めた。「父さんが倒れたのは誰のせいだと思っているんだ!?和真!!お前のせいだろうが!!」病院中に響き渡るような大声だった。壮真の顔は怒りで赤く染まり、目には責任を追及する相手を見つけたことへの執念さえ浮かんでいた
壮真が俯いたまま、何も言わずにいる。その態度を目の当たりにした正蔵の怒りは、ついに沸点へと達した。最初は、落ち着いて息子の言い分を聞いてやろうと思っていた。どれほど腹立たしい失態であろうとも、まずは本人の口から事情を説明させる。それが神崎家の当主として、そして父親としての自分の役目だと考えていたのだ。だが、目の前の壮真は一向に口を開こうとしない。視線を落とし、両手を膝の上で落ち着きなく動かすばかり。まるで叱責が過ぎ去るのを、ただひたすら待っているかのようだった。もともと気の短い正蔵にとって、その沈黙は耐え難いものだった。「壮真!!いつまで言い訳を考えているつもりだ!?言い訳なら聞いてやるから、早くお前の口から離してみろ!!」正蔵は目の前のテーブルを、手でバンバンと叩きながら怒鳴った。激しい音が部屋中に響き渡る。壮真の肩がビクッと跳ねた。反射的に背筋を伸ばしかけたものの、父親の鋭い視線を感じた途端、再び身体を縮こまらせてしまう。「……っ」何か言わなければならない。頭ではわかっていた。けれど、喉が詰まったように声が出てこない。何を話せばいいのか。どこから説明すればいいのか。そもそも、自分の口から何かを説明したところで、父が納得するとは思えなかった。幼い頃から、壮真は父親の顔色を窺って生きてきた。神崎家の長男として生まれ、いずれは家を継ぐ者として育てられた。勉強も、習い事も、交友関係も、将来の進路さえも、正蔵の意向が最優先だった。自分が何をしたいのか。何を望んでいるのか。そんなことを口にする機会は、ほとんどなかった。父の命令に従い、父が望む結果を出す。それが長男である自分の務めなのだと、いつしか疑いもせずに受け入れていた。逆らえば怒鳴られる。反論すれば、さらに厳しく責められる。何かを決めるときでさえ、自分の考えを貫くより、父が望んでいる答えを探す方が確実だった。そうしているうちに、壮真は自分自身の意思を表に出すことが、ひどく苦手になっていた。五十歳を超え、神崎家の長男として会社の経営を任される立場になった今でさえ、父の前に座ると、心の奥底に押し込めてきた恐怖が蘇る。目の前にいるのは、会社の後継者としての自分を責める父親であると同時に、幼い頃から一度も逆らえなかった絶対的な存在だった。その姿を見た正蔵は、さらに激昂した。
夜更けの神崎本邸に、一台の車が滑り込んできた。車から降りた壮真は、出迎えた使用人の言葉も聞かず、玄関を通り抜けると、父親の部屋へ向かって足早に歩き始めた。その表情には、疲労と苛立ちが色濃く浮かんでいた。鷹宮財閥の当主交代パーティーで受けた屈辱は、時間が経っても消えるどころか、思い出すたびに怒りとなって込み上げてくる。和真の態度。美玲の嘲笑。そして、何もかも見透かすような九条玲司の冷たい眼差し。思い返すだけで、奥歯を噛みしめたくなった。だが、今の壮真には、それらの怒りをぶつける相手がいなかった。美玲には相手にされず、和真には拒絶され、玲司の前では言い返すことすらできなかった。その鬱憤を抱えたまま、壮真は父親のもとへ向かっていた。自分を呼びつけたのは、ほかでもない父・正蔵だ。夜遅くにわざわざ呼び出したのだから、何か言いたいことがあるのだろう。そう考えながらも、壮真の胸には、幼い頃から染みついた緊張が少しずつ広がっていた。父の前では、いつだってそうだった。どれほど自分が大人になろうと、会社の社長という立場を得ようと、正蔵の前に立てば、結局は息子としての自分に戻されてしまう。「壮真様!! 大旦那様はすでにお休みになっています。呼べと言われたのは大旦那様ですが、今夜はもう遅いですし………」後ろから追いかけてきた使用人が、困り果てた様子で声を掛けた。しかし、壮真は振り返りもしなかった。「うるさい!わかっている!!」使用人の言葉に、そう怒鳴りつけ、ただ歩き続ける。父に呼ばれた以上、行かないわけにはいかない。それが神崎家の長男として、幼い頃から叩き込まれてきた習慣だった。やがて、父親の部屋の前にたどり着いた壮真は、ためらうことなくドアを大きな音を立ててノックした。「お父さん! 起きてください!!」廊下に響き渡る声。使用人が慌てて止めようとした、そのときだった。ドアが、スッと開いた。そこに立っていたのは、ローブを羽織った正蔵だった。「お父さ―――!?」壮真が言いかけた瞬間。バチンッ!!乾いた音が、静まり返った廊下に響き渡った。正蔵の平手打ちが、壮真の頬を容赦なく打ち据えたのだ。顔が横を向くほどの勢いだった。壮真は何が起きたのか理解できず、しばらくその場に立ち尽くした。頬がじんじんと熱を持ち、遅れて痛みが広がって